東京地方裁判所 昭和44年(借チ)1064号 決定
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〔主文〕 申立人が別紙記載の改築をなすことを許可する。
申立人は相手方に対し金五三万七、〇〇〇円を支払え。
〔決定理由〕一、申立の要旨
申立人は相手方から東京都豊島区要町二丁目一四番三宅地2,425.52平方米のうち196.72平方米(59.51坪)を昭和六年二月一八日以来普通建物所有の目的で賃借し、同地上に別紙記載の既存建物を所有していたが、これが昭和四四年八月三〇日火災により焼失した。申立人は右焼失家屋に永年居住し、教員として生活していたが、老年のため退職し昭和四四年六月一五日肩書地に移転し、従来の居宅を同年七月六日から賃貸し、その家賃と恩給によつて暮すようになつた直後右の火災にあつたので、焼跡に家屋を再築し賃料取入を得る方途を講ずる必要がある。本件借地契約には建物の増改築につきあらかじめ賃貸人の承諾を要する旨の特約があるが、相手方は右家屋焼失の翌々日である昭和四四年九月一日本件借地上に建物その他の工作建を建築することを固く拒絶する旨代理人である弁護士を通じ内容証明郵便をもつて通告してきた。ところで本件賃貸借契約の残存期間は昭和四六年二月一七日までなので、それまでに建物を建築しておかなければ、申立人は借地法第四条の更新請求をすることもできない。よつて相手方の承諾にかわる許可を求める。附随の処分については、借地期間を二〇年延長し、賃料については昭和四三年五月以降現在まで3.3平方米あたり月額七五円であるが、これを八五円とし、財産上の給付としては八一万円(3.3平方米あたり約一万三、五〇〇円)とされることを希望する。
二、相手方の意見の要旨
申立人は昭和四四年三月頃本件土地賃借権を地上建物とともに第三者に譲渡したいので、その承諾を求める旨相手方に申入れてきたので、相手方は自己使用の必要があるのでこれを拒絶したところ、相手方に買取を請求したので、相手方はこれに応じ、価格について再三折衝した結果同年五月四日午前八時三〇分頃相手方自宅において本件土地賃借権を地上建物とともに代金三一二万四、二七五円で相手方が買受ける旨の売買契約が成立した。相手方はその履行を求める訴を提起し、東京地方裁判所昭和四五年(ワ)第一八五七号事件として係属中である。よつて申立人は本件土地につき既に借地権を有しないから本件申立は却下されるべきである。
三、鑑定委員会の意見の要旨
本件改築は、土地の通常の利用上相当と認められる。本件改築許可により借地人は賃借権を確保し、地主は返地を期待できる時期が相当延期されるので借地人から地主に対し財産上の給付をさせることが相当であり、その額については、本件改築許可により借地期間が、当然今後二〇年は継続することになることに鑑み、更地価格一、七九〇万一、〇〇〇円(一平方米あたり九万一、〇〇〇円)の八%ないし一二%にあたる一四三万二、〇〇〇円ないし二一四万八、〇〇〇円の範囲内で決定されることが相当である。
四、鑑定委員会の意見に対する当事者双方の意見
(一) 申立人
全面改築の場合の財産上の給付額について、従前の東京地方裁判所の裁判例は、借地権価格の四ないし五%とするものが多いと思われるが、これに比して本件の鑑定委員会の意見は異例に高額である。また申立人の依頼した不動産鑑定士の鑑定によれば、本件の財産上の給付額は一〇七万九、〇〇〇円が相当であるという。その理由の要旨は、この場合の財産上の給付額は慣行的更新料に準ずるのが相当であり、その東京都内での標準相場は住宅地で木造の場合、延長期間二〇年なら借地権価格の五%(地代改訂を伴う場合)ないし六%(地代据置の場合)が穏当な水準と推量される。また平家建を二階建に改築することによる利益の増加を地主に分与することも考慮されるべきである。ところで本件土地の更地価格は3.3平方米あたり二六万七、〇〇〇円、借地権価格はその七〇%と査定され、二階に改築する場合は利用効率の増加を考慮し平家の場合の更新料の1.7倍を改築承認料とし、かつ残存期間が約一年であるから、これに応じた中間利息を控除するのが相当であり、このようにして計算すると本件の場合一〇七万九、〇〇〇円となる、というのである。この鑑定に照しても本件鑑定委員会の意見の額は高過ぎる。
(二) 相手方
かりに本件申立が認容されるとしても、鑑定委員会の意見について特に意見はない。
五、当裁判所の判断
(一) 相手方は本件借地権を地上建物とともに昭和四四年五月四日に申立人から買い受けたので申立人は借地権を有しないと主帳するので、まずこの点について判断すると、その頃に売買の交渉がなされたものの価格について話合いがつかず、結局売買契約は成立に至らなかつたものと認められる。すなわち、契約書も作成されず、手付金等も支払われていないこと、その後も地代は従前通り支払われており、また申立人はその後同年六月に右地上建物から肩書地に住居を移転したのち、同建物を他に賃貸したこと、同建物焼失直後に相手方から申立人に送られた工事禁止通知書と題する書面には、建物の焼失により賃貸借が終了したとか、かりに終了しないとしても契約の残存期間が短いので建築工事を拒絶する等右のような売買契約の不存在を前提とする趣旨の記載があること等を総合すると右のように認められる。したがつて申立人は借地権を有し、本件申立は適法と認められる。
(二) 次に本件改築は土地の通常の利用上相当と認められ、他にこれを不当とすべき事情はないと認められるのでこれを許可することとする。
(三) 附随の処分について、鑑定委員会は本件改築許可により借地期間が当然に今後二〇年延長されることを前提として財産上の給付額を評定し、申立人の希望および申立人の依頼による前記鑑定も同様の前提にたつものであるが、本件改築許可により当然に借地期間が二〇年更新されると解すべきではなく、約一年後の本件借地契約の期間満了時に相手方が更新を拒絶すべき正当事由を有するか否か、現時点においては予測し難いから附随処分において借地期間を延長することによつて、相手方の意思に反して正当事由による更新拒絶の期待権を奪うことは本件においては相当ではないと認められる。したがつて借地期間は変更しないことを前提とし、本件改築により建物の朽廃による借地権消滅の時期が遅れることによる当事者間の利害を中心として考慮し、これに本件借地契約についての上記の経緯および焼失建物が昭和六年頃に建築されたものであつたこと、改築後の建物が営利目的に使用される予定であること等の事情を総合考慮すると、財産上の給付額は前記鑑定委員会の意見による本件土地の更地価額の約三%にあたる五三万七、〇〇〇円を相当と認める。(白石悦穂)
既存建物および改築の内容
一、既存建物
木造瓦葺平家建居宅91.47平方米
(昭和四四年八月三〇日火災により焼失)
二、改築の内容
右焼失建物の跡地に次の建物を新築する。
木造瓦葺二階建共同住宅
一階 80.33平方米
二階 80.33平方米